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「その日は満室とまではいきませんでしたが、涸沢の混雑を避けて登ってきた人がかなりいましたからね。その方の名前だけ言われましても何とも???ただ、宿泊客の顔はある程度覚えていますから、写真か何かを見れば思い出すかも知れませんが???」
小山の言葉を待っていたかのように、仁科はポケットからデジカメを取り出した。
「これは昨日、現場で撮影した耍麤gさんの写真です。プリンタが無いので、デジカメの小さな液晶画面でしか見る事が出来ませんが???いかがですか?」
「さあ???見覚えの無い顔ですね???あ、丁度いいや。漢波羅君も見てくれないかな?」
「はい、何ですか?」
小山と仁科達のやりとりを一部始終目にしていた俺ではあったが、さも何も知らないと言ったそぶりで答えた。元々、人一倍好奇心旺盛な俺にしてみれば、本当は「待っていました」と言った所なのだが。
「昨日、涸沢岳沢で見つかった滑落遺体(オロクさん)の写真なんだが、一昨日(おととい)、うちへ泊まっていったらしいんだ。でも、あいにくと写真を見ても、この人の事を全然思い出せなくてね。ひょっとしたら、漢波羅君なら何か憶(おぼ)えているかなと思って」
俺は小山から渡されたデジカメの液晶画面を食(く)い入(い)るようにじっくりと見た。滑落の際に出来た裂傷や打撲痕を差し引いても、顔の損傷は比較的軽微だ。それにも関(かか)わらず、正直全く思い出せない顔である。
「俺の勝手な憶測かも知れませんが、この人、ここへは泊まっていないんじゃないかな?」
一同、顔を見合わた後(のち)、仁科が口を開いた。
「登山届にここへの宿泊予定が書かれていたし、小山さんにも確認してもらったけど、実際に宿帳(やどちょう)の中にも耍麤gさんの名前があったんだよ? 単に憶えていなかっただけなんじゃないの?」
「刑事さん、俺は昔から一度見た顔は忘れない方だし、写真の男性は男の俺から見てもハンサムで特徴的です。もし、泊まっていたなら、ましてや一昨日の客だったら、憶えていない筈無いですよ」
「確かに漢波羅君は人の顔を覚えるのは天才的だからなあ。バイト初日に初めて顔を合わせた全員の顔と名前を即座に覚えたし???仁科さん、漢波羅君が見覚えが無いって言う以上、ひょっとしたら、ここへは泊まらなかったのかも知れませんよ」
小山がすかさず助け船を出してくれた。しかし、仁科は尚も迹盲い胜い瑜Δ馈
「でもねぇ???耍麤gさんの死因は後頭部を強打した事による脳挫傷なんだけど、血痕を含め稜線上で誰かに石で後ろから頭を殴られたり、争ったり襲われたりした痕跡は無いし、第一、現場は大キレットに次ぐ罚Ц呖k走の険路だからね。普通に考えれば、足を滑らせた単なる滑落事故と言うのが妥当な所だと思うんだけどねぇ」
仁科は耍麤gの死を滑落事故として全く疑っていない。登山届と宿泊。この確認さえ取れれば、あとは型通りの捜査をして早々と打ち切りたい、そう言った印象だ。まあ、事件は次から次へと舞い込んでくる。警察が今回の件だけに専念していられない事は俺にも分かるのだが???
その日、仁科達3人の刑事は北罚Ц咝∥荬丐炔搐蓼辍⒁钊障律健H士皮螆蟾妞蚴埭堡堪嘛w騨署では事件性に乏しいとして耍麤gの死は滑落事故として処理してしまった。とは言え、俺はどうしても迹盲い胜ぁR欢饶郡摔筏款啢贤欷胜ぐ长偿堡摔丹欷郡妊预λ激い猡ⅳ毪ⅳ饯煲陨悉恕⑺{沢の死に対する不審感が益々募ってくる。元々、好奇心旺盛な俺にしてみれば、一度気になり出すと自分自身が迹盲工毪蓼钦{べずにはいられない。思い余(あま)った俺は、消灯前の小山を訪ねた。
「あの⑿∩饯丹蟆⒔瘠沥绀盲趣いい扦工俊
「漢波羅君、どうしたんだい?」
「小山さん、もうすぐ小屋仕舞(じま)いって言うこの時期にこんな事を申し出るのは大変恐縮なんですが、バイトを上がらせて頂けませんか?」
「何かあったのかい? ひょっとしてご家族の誰かが入院されたとか?」
「いえ、そう言うんじゃないんです。実は例の滑落事故の件で???」
「ン?」
「仁科さんら警察は耍麤gさんの死を滑落事故死として処理しましたが、俺にはどうにも引っかかるんです。宿泊してた筈なのに写真を見ても、全く顔を思い出せない」
「確かに一度目にした顔は絶対に忘れない君が、見覚えが無いって言うんだからなぁ。そこは僕も引っかかってはいたんだよ」
「小山さん、俺は耍麤gさんの死は事故なんかじゃ無いような気がするんです」
「ン?」
「ハッキリとこうだ!とは言えないんですが、耍麤gさんは殺されたんじゃないかって思うんです」
「???」
「登山届をきちんと出して、予定通りに小屋へ宿泊している。でも、もしも泊まった人間が耍麤gさん本人で無かったとしたら?」
「!」
「耍麤gさんじゃ無い別人が、耍麤gさんの名前で宿泊したとすれば、写真を見せられても見覚えが無くて当然です。でも、そうだとすると、何故わざわざ他人の名前で宿泊したのか? 何か後ろめたい事でもなければ、普通そんな事をする必要はありません。だから、犯罪の可能性があるんですよ」
「でも、漢波羅君。まさか、君は警察が事故死として処理した件を独自に眨伽瑜Δ盲蒲预Δ螭袱悚胜い坤恧Δ停俊
「はい、そのつもりです」
「漢波羅君、確かに不自然な点はあるよ。でも、一度、警察が出した結論を覆すのは容易な事じゃない。ましてや、犯罪性がある事なら尚更(なおさら)だ。耍麤gさんを殺した人間がいるとすれば、この件に関わる事で君にだって危害が及ばないとも限らないんだよ」
「それは分かってます。でも、生来の好奇心がそれを許さないんです。それに、僕は部屋住みの三男坊で、女房子供もいませんから。なぁに、大丈夫です。自分の身に危険が及びそうになったら、その時は撤退しますから」
「本当にそうしてくれよ。仮にも君は漢波羅家の御曹司(おんぞうし)なんだし、ここのバイトに雇うのだって、最初は躊躇(ためら)ったくらいなんだから」
俺の熱意と一度こうだと決めたら曲げない性分(しょうぶん)に根(こん)負けしたのか、小山は渋々とながらも事件の「捜査」を認めてくれた。
10月14日、水曜日、午前7時── 。
こうして俺は、主人の小山と仲間達に別れを告げ、一足早く北罚Ц咝∥荬颏ⅳ趣摔筏郡韦坤盲俊
第2章 二人の「耍麤g俊英」
前罚Ц咴坤群詻gカ搿。ㄆ匠19年10月10日 著者撮影)
北罚Ц咝∥荬颏ⅳ趣摔筏堪长蓼毫ⅳ良膜盲郡韦虾詻g小屋である。
涸沢カ毪摔隙帳紊叫∥荬ⅳ搿R卉帳膝‘ルの真ん中、「池の平(たいら)」と呼ばれる地に建つ涸沢ヒュッテ。もう一軒は北罚Ц咴滥狭辘沃毕隆侗冥思膜晏恚à剑─Δ瑜Δ私à暮詻g小屋だ。この内、涸沢小屋に10月9日、耍麤gは泊まっている。
北罚Ц咝∥荬钎啸ぅ趣颏筏皮い块v係で涸沢小屋のスタッフとは顔見知りだ。俺は、当日の宿帳を見せて欲しい旨(むね)告げると、涸沢小屋名物のソフトクリ啶松喙模à筏郡膜扭撸─虼颏沥胜椤ⅴ讴‘ジを繰(く)った。
10月9日の宿泊者の中に耍麤g俊英の名を見つけ出すのは、さほど難しい事では無かった。まあ、これは既に確認されている事なので当然と言えば当然なのだが、俺が知りたいのは別の点だ。俺は胸ポケットからオリンパスμ795SWを取り出した。耐寒温度…10度、多少の落下衝撃にも耐えるこのタフなコンパクトデジカメはアウトドアには持ってこいである。俺は耍麤g自身が書いたその部分を数枚撮影し、涸沢小屋をあとにした。
次に向かったのは上高地バスタ撺圣毪坞Oにあるインフ